東葛印旛大師巡拝

正式名称は、准四国八十八ヶ所東葛印旛大師巡拝(送り大師)。四国のお遍路さんを模し、八十八ヶ所の札所を巡るものです。
東葛印旛大師巡拝は、毎年5月1日〜5日、柏市、白井市、鎌ヶ谷市、松戸市にまたがる地域、約80km歩きます。200年以上続いています。四国以外の地域では最大級の規模と言われています。

弘法大師の御影を厨子に納め、その年の結願地区の寺院住職が先達となり、ほら貝が吹かれ、それに続いて参加者が「南無大師遍照金剛」と歌うように唱えながら歩きます。

弘法大師をまつる札所では般若心経が参加者により唱和されます。

各地区の札所では、お茶菓子などの接待していただきます。お接待は、見返りを求めないお布施であり、功徳を積む行為とお聞きしました。文化が根付いていることを感じます。

最終日、結願(けちがん)と呼ばれる行事が盛大に行われます。
5日間、全ての札所を巡り、最終日に初日に出発した札所に戻ってくることを「結願」といいます。

お大師さまを納めた厨子を中心に、露払い、獅子舞、法螺貝を吹く吹螺師(すいらし)、稚児行列、ご詠歌連中、四国先達、東葛印旛大師組合役員、参加者である講員が列を組み、結願区寺院へと向かう「練り込み」が行われます。

境内の中央には大きな卒塔婆が建立され、結願法要が行われます。

始まったのは、文化4年(1807)など諸説がありますが、創立には高柳村(現柏市)の大久保氏と長全寺(柏市・曹洞宗)の住職が主導的な役割を果たしたと伝わっています。

娯楽や交歓の場として、農業研修や情報交換の場としての性格もある行事です。
参加地域は手賀沼水系と重なっていることから、水利権の水争いなどに対する知恵だったのではないかと私は推測しています。

東葛印旛大師巡拝は、弘法大師・空海を祀るものですが、真言宗の行事というわけではなく、宗派を超えた東葛印旛地域の寺社が参加しています。そして、それぞれ大師組合を結成し、その寺社の檀家や氏子でなくても、地域の人々が参加しています。伝統的な行事ですが、オープンな文化だと感じました。

動画 TEGANUMA LAKESIDE STORY vol 8 手賀沼の祭・東葛印旛大師

終わって数日後に、各地域の大師組合では、村結願(ムラケチガン)が開かれます。
村結願とは、東葛印旛大師巡拝に参加できなかった方々とも、その経験を共有する場であると、お聞きしました。
お伊勢講などの歴史研究で紹介されているように、昔は、遠くに出かけるということが珍しいもので、講でお金を積み立てて、村の代表者を選び、何日もかけて歩いたそうです。その代表がお詣りした功徳を村の人々で授かり、珍しい旅の経験を共有し、楽しんだものと聞きます。

この東葛印旛大師巡拝でも、今のようにバスはなく、五日間泊りがけだったので、参加できない方が多かったことでしょう。そのお話を聞くような場が、村結願だそうです。

記:山下 洋輔