春季句会 講評
今回の結果を詳しく拝見すると、必ずしも高得点でない句の中にも秀句が多く、皆様の力量アップがよく解りました。選定に苦慮しましたが、下記を選びました。
天 (1句)
はだれ野に黒牛放つ夜明かな 清明
はだれ野の雪の白さ、牛の輝く黒色、夜明の朝日の紅(くれない)と色彩感豊か。静寂と広闊、開放感と将来展望も感じられる。
地 (1句)
仰ぎみること他になく桜かな 安分
世俗社会は、政治、外交、コロナ禍と混迷振りは目を覆うばかり、、、。 仰ぎ見るは満開の桜のみ、、、。俳句とは思えぬ鋭い社会時評に共感。
人 (3句)
1.強東風や草に埋もれし道祖神 ら行
冬の間、草にうずもれて過ごした道祖神も、東風の温もりに春を感じてニッコリ。道行く人たちも思わずほほえむ。
2.春嵐セゴビアを聴く家居かな 晃子
コロナ禍の中、充実した楽しい家居ですねえ。春の嵐とセゴビアのギターの調べのハーモニー。美しくも剛毅な想いと共に、時は過ぎ行く。
3.大地けり二輪車こぐ児つくしんぼ 加行
2から一転して、元気で可愛い坊や(あるいはお嬢ちゃん)の広野原でのありさま。思わずつくしん坊も「 GO! GO! 」と叫ぶ、、、。
秀句 以下の3句としました
1.猫帰る春の温もり身につけて 桂子
暫くの間、どこへ行っていたのでしょうか。春風駘蕩の満足げな顔つきからすると、、、。
2.飛梅や亀戸天神三丁目 湯治
天神の宮司さんや、天神前のくずもちの「船橋屋」の渡辺会長達とは昔、彼の地でお付き合いがありました。懐かしいなあ。
3.二本松岳の湯熱し朧月 泰平
本当に今行きたい処といえば、温泉ですね。それに露天風呂で朧月とは、、、。
ズバリ皆んなの今の望みを言い当てていますね。
【付 録】
** 私の好きな春の句 **
私の「好きな春の句」をピックアップしてみました。皆様の場合はどんな句が揚がってきますか。
かたまって薄き光の菫かな 渡辺水巴
昭和9年4月、鹿野山にての作。芭蕉の「山路来て何やらゆかしすみれ草」に呼応しているような、、、。
たんぽぽや長江濁るとこしなへ 山口青邨
昭和12年「揚子江のほとり宝山城にて」とある。ドイツ留学の途上の由。悠久の流れに長い興亡の歴史をも想う。
まさをなる空よりしだれざくらかな 富安風生
市川真間、弘法寺境内の桜の由。今行っても見られます。
葛飾や桃の籬も水田べり 水原秋桜子
他に「梨咲くと葛飾の野はとの曇り」、「連翹や真間の里びと垣を結ばず」など。
春星や女性浅間は夜も寝ねず 前田普羅
他に「浅間燃え春天緑なるばかり」、「女性浅間春の寒さを浴びて立つ」など。
一もとの姥子の宿の遅桜 富安風生
昭和5年、箱根の湯治場の一軒宿「秀明館」にて。金時が産湯をつかったといわれる雅味ある宿。行ってみたがとても良かった。
紺絣春月重く出でしかな 飯田龍太
昭和29年、34歳で出した第一句集「百戸の谿」所載。久留米絣は子供たちが、上から順々にお下がりを着たもの。懐かしき昔の少年時代。
馬酔木より低き門なり浄瑠璃寺 水原秋桜子
九体仏や三重塔が有名だが、行ってみたら池を望む小さな門などが印象的だったのであろう。
小流れも利根のうちなり種浸す 小杉余子
柏近辺でも、昔は種を水に浸してから撒いていた。
私の句も一、二。
筑波嶺を望む大寺大種井
牛浸したる池の中島弁財天
壱岐やいま木の芽をかこむ怒涛かな 加藤楸邨
昭和16年3月、沖ノ島にて176句詠んだ由。他に「春さむく海女にもの問ふ渚かな」「耕牛やどこかかならず日本海」
講評:宇佐見房司